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災いの子供

 ある山の奥に村が在りました。小さな小さな村です。住んでいる人は二十人居るか居な
いかというところでしょう。
 そんな村に、一人の子供が産まれました。可愛い女の子です。
 村の人たちは皆、自分のことのように喜んでいました。勿論、その子を産んだ夫婦も嬉
しそうです。
 しかし、一人だけ喜んでいない人が居ました。村の占い師さんです。
 占い師さんは、新しく産まれた女の子は村に災いを呼ぶんだ。と、言いました。
 その占い師さんの言うことはよく当たるので、村の人たちは、女の子を殺そう、と言い
ました。
 でも、子供を産んだ夫婦は首を縦には振ってくれません。勝手なものですね。村の人が
犠牲になっても、自分の子供さえ助かればいい、とでも思っているのでしょうか。
 村に災いが起こっても良いのか、と、村の人たちは聞きました。全くその通りです。
 夫婦は、そんな事あるわけが無いと言っています。根拠も無いのに、酷く適当な言葉で
すね。信じられません。
 お金を払うと言われても、土地をあげると言われても、夫婦は女の子を殺すことを許し
ては、くれません。意地になっているのかもしれませんね。
 村の人たちは困りました。占い師さんは呆れています。そして、村の人たちは夫婦の許
しを得ずに、殺すことにしたのです。災いが起こらないようにするためです。それも、仕
方の無いことなのかもしれません。

 今はもう夜。今日はお月様がお休みをする日なので、外は真っ暗。気付かれないように
人を殺すには、ピッタリの日です。
 まず、鍵開け名人さんが家の鍵をこじ開けます。ガチャガチャ、と小さな音がして、扉
が開きます。
 次に、一番身のこなしの軽い人が、そっと、寝ている女の子を家から連れ出します。夫
婦も、女の子も、まだまだ夢の中です。
 さて、最後の仕上げです。皆で村に流れる川へと行き、女の子の服に石をつめて落とし
ました。当然、神様へのお祈りも忘れません。
 これでもう村の人たちは安心しました。そして、夢の中へと旅立ちました。

 それから数ヶ月、夫婦は女の子を探しました。しかし、どこを探しても見つかりません。
当然ですね?
 夫婦は、村の人たちが女の子を殺したんだ、と思いました。だから、隣の家の人に訊い
てみました。
 隣の家の人は、申し訳なさそうに首を縦に振ります。認めてしまったのです。全く、何
と言うことをするのでしょう。黙っていれば、夫婦には解らないのに。
 知ってしまった夫婦は、自分の家へと戻ると、農作業のときに使うようなクワ、それと、
針金を用意しました。その後、町に行って、灯油とマッチも買ってきました。
 夫婦は、静かに夜が来るのを待っています。

 今はもう夜。今日はお月様がお休みをする日なので、外は真っ暗。気付かれないように
人を殺すには、ピッタリの日です。
 まず、手先の器用な奥さんが隣の家の鍵を開けます。ガチャガチャ、と何度か音がして、
扉が開きます。
 次に、力の強い旦那さんが、寝ていた隣の人にクワを振り下ろします。グチャ、という
音がして、隣の家の人はずっと眠ることになりました。
 さて、最後の仕上げです。旦那さんと奥さんは村中に灯油をまき、それに火をつけまし
た。
 村の人たちは異変に気がついて、慌てだします。でも、もう遅すぎました。村中に火が
回っていたのです。
 村の人たちは皆死にました。夫婦も、高笑いをしながら死んでしまいました。

 それから時が流れて、今では、炎のように赤い色をした花が咲き誇るだけの場所になり
ました。
 かつてそこに村があったことなど、もう、誰も覚えてはいません。



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